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picture たまに読書

HN harborが撮った写真や絵をアップしていきたいと思います。たまに読書とか、たわいもない話から、真面目な話など。お笑いなんかも・・・

 哀しい生き物

  病院の敷地の外れに設けられたゆるやかな白いスロープをたどりながら、私は、自分の気持ちを確認するように

慎重に歩を進めた。

風薫る五月。日差しが眩しすぎて直視できないほどであるが、 見上げる青空には雲ひとつない。唯一、南の方角

に中型のセスナ機が飛行していて、それがオフ・ホワイトの飛行機雲の母になっている。絵に描いたような五月晴

れと病院の白い建物に私は辟易している。  太宰治先生が,この光景をご覧になったら。「あまりに俗で、まる

で駄目だね。俗で、俗すぎて絵にもならないね。」と仰るだろう。さらに四方から鳥のらのさえずりまでも聴こ

えてくる。なんなんなんだ。この幸福の四面楚歌は!!!。  彼等は楽しいのだろうか?と私はフト思う。だが、

結局彼等は楽しいに違いないと思った。  鳥のくせに生意気な!「チッ!」と舌打ちをした自分に対し嫌悪感を抱

く。最近、こんなのばかりだ。身を持ち崩した四十女のひがみなのか?    離れにある敷地を通り抜け、病院の

本館に着いた。病院の正面玄関から外来の窓口に一歩、 足を踏み入れると何の臭いもしなかった。病院のあの臭い

がしない。なにか変だなと思った。  保険の外交員をしていた三十代の頃、私は、敏感に他人の家の臭いをかぎわ

けてしまっていた。でも私の臭覚が異常に良いからといって、それを武器に暮らしてはいけない。 臭覚の国家資格

試験があるわけではない。私は何回か履歴書の特技の項目に、『臭覚が人一倍良い』と記入しようとしたが、その

度に記入をするのをやめていた。私には二人の親友がいるが、何故、今日、病院にお見舞いに来た理由とともに

臭覚のことは話していない。病院の臭いは臭覚というよりも記憶の中に残っているのかのしれないと思った。残存

記憶というより残存臭覚。病院の臭いがしないことは、どうでも良いことだと思いなおした。そのように病院の臭

いに気を取られたのは、私の母が看護婦だったからだ。幼い頃、特に用も無いのにもかかわらず一人で病院に行っ

たりもしていた。あの時の臭いがしない。  そして私は「ふふふ・・・」、と笑いがこみあげてきたのだが、場所

が場所だけに我慢をした。私のほうが男を誘惑させるような 否、男を誘惑するために夜の服を身につけ、たっ

ぷり香水を つけてきたのだから・・・ 不謹慎ね!と言いたいばかりに、何人かのご婦人がチラリと私を見た。私

は日本の平均的な女性の身長より15センチメートル程高い。さらにヒールを履いているので175を超える。真昼

間から病院でディオールの臭いを撒き散らし、夜の女のような服で身をかためている。御婦人方にチラリ・チラリ

批判的にというより侮蔑の表情で観られているので、(おそらく不倫相手に会うために、病院に面会に来たのだと

想っているのだろう。でも、私の場合不倫といえば不倫だけど不倫ではない)私は仕方が無く足元に視線を移し、

病院の床を見た。これがリノリウムの床と称されているものであろうか?と思った しかし建築学科とは無縁の文

学部卒の私には、その正体はなんとも判らなかった。病院の床は鏡のように光沢をたたえ輝いてはいたもののグレ

ーの落ち着いた色の床の責なのか、南側の窓から差し込む光が強すぎる責なのか、床に映る私の顔は乱反射して

波打ち、まるでボナールの絵のようにぼんやりしているように観えた。 そしてその顔は、マルトのような表情で

はなく、いまにも泣き出しそうになっている迷子の少女のように観えた。私は胸元に抱いていた黄色いチューリッ

プの花束を持ち直した。 こんな弱気なマリリン。学生時代のサークルで遊びまくった男友達が今の私を見たらど

う思うだろう。なにせここはアウェー。敵地だ。これまで一度も人生の試練や修羅場を通り抜けてこなかった立教

のマリリンは逆境に弱かったのを、自分で、いまさらながら気がついた。

 さー戦争開始。絶対夫をブスな彼女から取り戻す。
 
 何故、今日、わざわざ、この私が夫のお見舞いに来たのかというと、彼が肝臓を患い大学付属病院に入院して

いるからだ。夫と言ったが元夫だ。10年前に正式に離婚している。それが何故???

 それが私でも解らないのだが、夫が再婚したのを風の噂できいたからだった。ビン底メガネをかけ、三つ編みに

し、化粧もしない・・・

 まーはっきり言えばブスとのことだった。元夫の伴侶が、私より数段美しい女性だったら(そんな女はいないと

思うが)諦めもつくものの、ブスと再婚するなんて、ありえないことだった。なぜなら彼の卒論は、『ドリアング

レイの肖像』に見られる自己愛の形成と顔喪失に伴うパーソナリティー障害についてだったし、あの耽美派を豪語

して、私に百夜通いまでして、私を陥落させたのは彼のほうだったのだ。彼は私の容姿を溺愛し、百年の愛を誓っ

た。

 彼のプライバシーを侵害するが、(彼がこの私を・・・この私を大切にしなかったから罰を受けるのは当然だか

らプライバシーの侵害もありだ)初めて彼と夜を明かした彼は、子供のようにはしゃぎまくった。

 彼のHは、今まで付き合ってきた男友達とのランキングでは、彼のHは、下手から数えたほうが早かった。

 でも、自己中なHをしないのを、私は気にいった。

 そして二年付き合い、(キャンパスに咲いた恋)と嫉妬とも羨望とも、なんとも好奇な目線で追われているのが

手に手を取るようにわかったほどだった。彼は文芸部に所属していたが、作家になるつもりはなかたらしい。
 
 私も同じだった。

 彼は大手の出版社に就職が決まった。彼の父との取り決めで、自分の事業を譲るのは、十年間は民間の会社で働

くことだったらしい。私はミス立教のネームバリュウーの責か、モデルクラブや、芸能プロダクションやら、何通

かのオファーも、丁寧なお手紙を頂いたが、働くのはいやだし、そのまま彼と結婚した。

 女は想うより、想われた方が幸せになれる・・・とかきいていたし、彼は、私の性格ではなく、私の容姿にぞ

っこんだったのも気に入った。百年の愛を誓ったのも私の背中を押した。そして彼が資産家の子弟であることで、

母は、あっけなく賛成した。お金で苦労させたくなかったようだ。彼の家は、六本木や、麻布に数十のテナントビ

ルを持つ、お金持ちだった。全ては順風に行っていた。バブル経済の崩壊と私の容姿の美の老いを迎えるまで

は・・・


(つづく)
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  1. 2013/09/25(水) 17:24:54|
  2. 小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

続きが楽しみです。

女性目線ですね。
いいですね。

時たま出る作者の心みたいのがまた良い感じです。

頑張ってください。
  1. 2013/09/26(木) 19:11:14 |
  2. URL |
  3. ピヨピヨ #-
  4. [ 編集 ]

ピヨピヨさんへ

 女性目線・・・いいですか?独白が精一杯です。いざ、自分で書き起こすと、これくらいしかできないのかと自己嫌悪に陥りました。でも、がんばっていきましょう。

 もっと五色の筆を持ったみたいに、縦横無尽に書き飛ばしたいんですけど・・・まーこれは習作ですから
全ては三年後。書いていく以外に、道はないかもしれません。書こうと思ったときがスタートライン。そんな広告のことを思い出しました。頑張ります。
  1. 2013/09/27(金) 15:39:35 |
  2. URL |
  3. HARBOR33 #-
  4. [ 編集 ]

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